フリーゲームの中には、「本当にこれ無料なの?」と驚くほど完成度の高いものが幾つも存在し、私もたくさん遊ばせていただきました。
その中から、今回は【オシチヤ】についてご紹介したいと思います。
公式さまからのゲーム紹介は下記のとおり。
見知らぬ屋敷の一室で目を覚ました少女は、
成り行きで見張りのすねこすりと共に
そこからの脱出を試みることになった。
少女とすねこすりを切り替えて、
うろつく妖怪の目を盗み、
外への道を見つけるのだ。
上記の説明どおり、基本的には妖怪が巣食う和風な屋敷からの脱出モノです。
同じような屋敷が舞台の「マヨヒガ」が事前プレイ推奨されることが多いですが、ストーリー上の繋がりはありません。
ただ、前作をプレイしていると、「オシチヤ」の主人公の特殊性が強く心に響くという側面があり、そのためプレイした経験者としては同じ感動を覚えて欲しくて勧めるというのはあります。
歯に絹を着せた説明で申し訳ない。
このゲーム、人に紹介するときに、「和風脱出ゲーム」で括ってしまうにはあまりにも惜しい設定があり、それはプレイすると人によってはすぐに気付けるのですが、どうしても多少のネタバレを避けられないのです。
しかし、公開後かなりの年数が経っていることもあり、フリーゲームで遊び慣れた方は既に遊んでいるゲームではないかと思われます。
そのため、私のブログでは、フリーゲームをあまり遊んだりしたことのない方にもこのゲームの魅力をお伝えすべく、ほんの少し世界設定のネタバレに抵触しつつ感想を書きたいと思います。
「オシチヤ」が訴えかけてくる世界観
まず、私が好きなゲームは、「世界観がプレイヤーに訴えかけてくるものがあること」や「旅の雰囲気を楽しめること」であることが多いです。
「オシチヤ」もまた、感動を与えてくれたゲームです。
激しく心を打つのではなく、じわじわ沁み込んでくるような、そんな余韻でした。
オシチヤが旅好きの心に訴えてくるものは、旅とは人生であり、人生もまた旅である、という、奥の細道のような概念です。
月日は百代の〜という、アレですね。
ゲーム開始後、画面は真っ暗。
そこに鞠が現れ、勝手に跳ねはじめます。
手毬歌は下記のとおり。
とんとんとん
ひとつふたつ
みつよっつ
いつつむっつ
なはななつ
ななつまえはかみのこで
ななつすぎればひとのこで
とんとんとん
ひととかみの
ふたおもて
みいはしよつつじ
いつまいる
むつきでつつまれ
ななよすぎ
やつらのなかまに
なりました
そして、鞠の周囲に黒い人の影が生まれ、灯籠に挟まれた道を登っていきますが、影が通ると左右の灯籠の火が消えてしまいます。
そして、いつの間にか和室の中に少女がいる画面へと切り替わり、ゲームが始まるのです。
この時点で、「オシチヤ」というゲームタイトルから、赤ちゃんが7夜のうちに名前を付けられる「お七夜」の儀式はすぐに連想可能だと思います。
簡単にゲーム内容をご説明いたしますと、プレイヤーは屋敷を脱出したがっている「少女」と、彼女に手を貸してくれる妖怪「すねこすり」の2人の場面を切り替えて道を進んでいきます。
謎解きがなかなか難しく、簡単には進めません。
「少女」が妖怪に会ってしまえばモグモグされて終わりです。
簡単なお使いさえ、ただ行って戻るだけではクリアできません。
正直、何をしたらいいのか分からなくなる場面も結構あると思います。フリーゲームに慣れていない方でしたらなおさらです。
ですから、どうしても詰まったら、ネットの攻略ページを見ながら進めてもいいんじゃないでしょうか。
それでもどうにかクリアまで進めてみて欲しいのは、本当に味のある、いえ怖いこともあるんですが、この世界観が独特で深みがあるからです。
随所に記された資料や妖怪たちの言葉からも、世界設定は伝わります。
「少女」と「すねこすり」を入れ替えて進むのも、屋敷の中に「陰」と「陽」の時間軸があるのも同じ。
物事には裏と表の局面があり、1つの物事が始まるとき、1つの物事は終わらなければならないというメッセージです。
妖怪に食べられる以外に、このゲームには複数のストーリー付きエンディングがありまして、どれも素晴らしいものです。
その中でもっとも、いわゆるバッドエンドに近いものをご紹介したいと思います。
それでもホラーではないし、この世界観がよく伝わると思いますので。
まず、どうしたらこのエンディングになるのかというと、物語中盤で、「少女」が1人、屋敷の外へと至る道を見つけます。
そこで、「すねこすり」のことも何もかも放って、ただ外へ出て、四つ辻を越え、ひたすら歩いていくと、やがて少女の姿は黒く染まっていってしまいます。
そして……というエンディングです。
お分かりいただけたでしょうか。
「少女」はもともと闇から生まれたもので、「人」になるための途中だったのです。
「オシチヤ」の儀式を越えられるかどうか、試されていたということですね。
そして、エンディングで、タイトル画面と一緒にいくつかの用語説明が出ます。
私は初めてこのゲームを遊んだとき、(食べられた以外で)初めて迎えたエンディングがこれでした。
それでも、他のエンディングに辿り着いたとき感動したので、あえてこのエンディングだけは紹介させていただきました。
ホラー要素が無いわけではないのですが、「怖そうだから」という理由で遊ぶのをやめてしまうにはあまりに勿体無いゲーム、「オシチヤ」。
エンディング後、プレイヤーへのメッセージもまた、深みのあるものです。
これを乗せるかどうかはちょっと迷うのですが、上記エンディングを迎えれば見られる台詞ですので、記載しておきます。
お七夜と初七日は同じ「7」ですね。
「少女」がどのような道を選ぶのか、そしてその道を手伝ってくれる「すねこすり」はどうするのか、少女の「生まれるまでの旅、または還るまでの旅」を、ぜひ見届けていただきたいと思います。
どれも短い場面の連続ながら、人生をそっと肯定してくれる、そんな印象深いエンディングでした。
ダウンロードはこちら、「オシチヤ」から。